令和5年の紅白歌合戦は、耳慣れたアニメや

ドラマ絡みの楽曲が多くエントリーされた。

毎年、紅白で世間の流行りを後追いする私にとって、

耳から得る情報は心地よく脳裏に残っていく。


 コロナ禍にアニメ『鬼滅の刃』が映画化され、

オーケストラの演奏に触れて作品の世界観を耳から楽しむことができた。

作品の背景に流れる劇伴も、あらゆる作品で耳に残り、

その世界観に私達を誘ってくれる。

最近は、アニメ『葬送のフリーレン』の劇伴に使用される北欧の楽器が、

ノスタルジックな冒険の旅に耳から連れて行ってくれるのが毎週の楽しみである。


 音楽が、理由もなく心を鷲掴みにする。

そんな体験が続いている。


 アニメ映画『BLUEGIANT』でも、ジャズの熱さが劇中の演奏から伝わってきた。

音響の良い上映館に通うファンが沢山現れ、再上映も続いている。

もはや耳からに留まらず、

体全体で楽曲を楽しみたいという衝動に

突き動かされる作品なのだ。


 コロナ禍や世界情勢、気候変動の不安で

縮こまった心を解き放ちたい欲求が、

あちこちで渦巻いて溢れ出ている。

溢れ出るなら、怒りではなく歓喜であってほしい。


 朝の連続テレビ小説『ブギウギ』で、

ラッパと娘という楽曲がステージで披露された。

そのシーンに、またしても心を鷲掴みにされた。

この楽曲が発表された当時、

昭和14年は、ヨーロッパで第二次世界大戦が勃発。

日本では「国民徴用令」が7月に公布される。

燃料不足から、木炭が配給制になり、統制や抑圧が厳しくなっていく。

舞台を大手を振って

縦横無尽に動き回れたギリギリの頃。

ラッパの演奏に負けないくらい

威勢よく声を張り上げる

笠置シヅ子さんを演じる趣里さんの歌声が、

耳から離れなくなった。

そしてご本人の歌声も、耳から脳裏に焼き付いた。


 「ジャズは熱い」

と評して世界一のサックスプレイヤーを目指したのは、

アニメ映画『BLUEGIANT』の主人公、

高校を卒業して仙台から上京したばかりの青年、

宮本大くんである。

その言葉を実感したのは、

映画のクライマックスのあたり。

仲間が不慮の事故に遭い、

夢の舞台に立てなくなり

ドラムスとテナーサックスだけで演奏するシーンだった。


逆境でこそ、その熱さが伝わって来る。

切なげな短調の音階は、

ジャズがブルーと表現される由来らしいのだが、

抑圧された感情が溢れ出す表現として、西洋音楽の規律に反する自由さも、

ジャズの熱さなのだと私は理解している。


 耳から脳へと伝わる熱いエネルギー。

映像技術に目を奪われがちだが、

楽曲にも耳を寄せて、

その熱量を味わう日々を、

今、この時代にこそ楽しみたい。



蕗357号 掲載予定



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